「息子の作り話に、先生まで巻き込まれました」〜空想と嘘の区別がつかない5歳児のこと〜
📮 ママ友ドクターからの手紙 ── Vol.11
セミが鳴き始めましたね。玄関にはプールバッグ、カレンダーには「終業式」の文字。わが家では三男が「夏休みになったら毎日かき氷を作って食べる」と宣言してます。
さて、今日は、5歳の男の子を育てるかおりさんからのお手紙にお返事します。「うちもある!」と頷くママ・パパ、きっと多いと思いますよ。
ゆみ先生へ
はじめてお手紙を書きます。5歳・年長の息子のことで相談させてください。
息子はおしゃべりが大好きで、自分の空想を、まるで本当にあったことのように人に話します。「ぼくんちに子犬が来たんだよ」「パパとヘリコプターに乗ったことがある」など、ありえなくもない内容だと、相手の大人が本気で信じてしまうんです。
先日はついに、幼稚園の先生に「〇〇ちゃんがぼくのおうちのおもちゃを持って行っちゃった」と作り話をしました。お友達を巻き込む嘘はさすがにまずいと思い、「嘘をつくのはやめなさい」と強めに諭したのですが、息子は泣いて怒るばかりで、話になりませんでした。
言葉の発達がゆっくりで、発達特性の相談で療育に通っていた時期もあります。せっかくおしゃべりが上手になったのに、「このまま嘘つきな子になってしまうのでは」と不安でたまりません。空想の話と本当の話を分けて話すことを、どうやって教えたらいいのでしょうか。
かおりより
かおりさんへ
お手紙、ありがとうございます。
「嘘をつくのはやめなさい」と強めに言ったあと、泣いて怒る息子くんを前に、かおりさんもきっと胸がざわざわしたんじゃないかなと思います。お友達の名前まで出てきたら、「相手の子に濡れ衣を着せてしまう」「親としてここで止めなきゃ」と焦るのは当然です。
まず最初に、これだけは言わせてください。
あなたの対応は間違っていないし、息子くんも嘘つきではありません。
お友達を守ろうとしたかおりさんの判断は、親としてまっとうです。そして息子くんのほうも——実はここが今日いちばん伝えたいところなのですが——本人に、嘘をついているつもりがない可能性がとても高いんですね。
5歳の頭の中では、空想と記憶の「仕分け係」がまだ研修中
3歳から5歳くらいの子どもの脳では、「頭の中で思い描いたこと」と「実際に体験したこと」を区別する力が、まだ育ちきっていません。心理学では、記憶の"出どころ"を見分ける力(ソースモニタリングと呼ばれます)は就学前後にかけてゆっくり発達していくことが知られています。
つまり息子くんの頭の中では、「子犬が来たらいいな」と鮮やかに想像したことと、「本当に子犬が来た」という記憶が、まだきれいに棚分けされていないんですね。仕分け係が研修中なんです。
だから、大人から見れば「嘘」でも、本人にとっては「本当のこと」。それを「嘘でしょ!」と否定されると、子どもは自分の世界そのものを否定されたように感じて、泣いたり怒ったりします。息子くんが泣いて怒ったのは、反省していないからじゃなくて、本気で身に覚えがないからなんです。
そしてもうひとつ。「ぼく10歳だよ」「ヘリコプターに乗ったんだよ」と話を盛るのには、ちゃんと理由があります。すごいねって言ってほしい、自分を大きく見せたい——つまり、褒められたい・認められたいという、とても健全な心の育ちのサインなんですね。
私が講演会やセミナーでいつもお伝えしていること。行動には必ず理由がある。「嘘つきな子だから」で考えを止めてしまうと対策が見えなくなりますが、「仕分け係が研修中で、褒められたい気持ちが強い子」と捉え直すと、やることや声がけが見えてきます。
「嘘はやめなさい」の代わりにできる、3つのこと
① ママが"記者さん"になって、質問する
明らかに違うな、という話が出てきたら、否定せずにインタビューして下さいね。
「あれ?本当に?〇〇ちゃんがおもちゃを持って行っちゃったの?」
「いつ?どうやって?どんなおもちゃ?」
具体的に聞かれると、空想の話はどこかで答えに詰まります。そこで本人が「……あれ、ちょっと違ったかも」と自分で気づく。この「自分で気づく」経験が、仕分け係を育てる何よりの練習になるんですね。頭ごなしの「やめなさい」は、この練習のチャンスを奪ってしまうので、実はいちばんもったいない対応なんです。
② 気づけたら責めずに、起きたことに"名前"をつける
ほころびに気づいた瞬間こそ、叱るのではなく、こう言ってあげてください。
「そっか、頭の中で考えたことと、本当のことが混ざっちゃったんだね!!(ニッコリ)」
嘘つき、ではなく「混ざっちゃった」。悪気はないけどよくあることだから気をつけようね、という着地です。どうしても本人が譲らないときは、「じゃあ、〇〇ちゃんのお母さんに確認してみるね」と、事実を一緒に照らし合わせる。答え合わせを重ねるうちに、「頭の中のこと」と「外の世界のこと」の境界線が少しずつ引かれていきます。
正直、手間です。でもこれ、息子くんの頭の中の情報整理の練習そのものなので、かけた手間は必ず育ちに返ってきますよ。
③ 空想に"出口"を作って、褒められたい気持ちには肯定的注目を
空想力そのものは、削るものではなく、行き先を作ってあげるものです。「じゃあ、ここからは〇〇くん劇の時間ね!」とお話タイムの枠を作って、思う存分語らせてあげてください。「お話の世界」という札のついた棚ができると、逆に「本当のこと」の棚も区別しやすくなります。
そして根っこにある「認められたい」気持ちには、盛った話を待つまでもなく、日常の行動をそのまま実況中継、肯定的注目で。「自分で靴そろえたね」「弟に貸してあげられたね」。話を盛らなくても見てもらえている、と分かると、盛る必要そのものが減っていくんですね。
白状すると、私も「仕分け」を間違えます
これ、実は他人事じゃなくてですね。私自身、想像力というか妄想力(?)がかなり強いタイプで、大事な対談の前などに頭の中で何度もシミュレーションをするんです。すると、あまりにリアルに繰り返すものだから、「あれ、この話、もう本人としたんだっけ?」と、現実の記憶と混ざりそうになることがあります。医師「小児科医でもこうなんです(笑)。だから私も「あれ、違ったっけ」と自分で修正する練習を、今も続けています。
そう考えると、5歳の息子くんが混ざるのは、当たり前すぎるくらい当たり前ですよね。
そしてもうひとつ、希望の話を。ありもしない子犬やヘリコプターの物語を、大人が信じてしまうほど生き生きと語れる——これ、すごい力です。わが家の長男も、独特の発想で周りを驚かせる子で、ゴッホに惚れ込んで3年連続でゴッホの自由研究をしたり、「中国のトイザらスで現地の言葉でおもちゃを買いたいから」と中国語を独学したりしています。正解をなぞる力はAIがどんどん引き受けてくれるこれからの時代、ゼロから物語を立ち上げる想像力こそ、人間の子どもの強みです。
かおりさんが今そばで育てているのは、嘘つきの芽ではなくて、物語作家の芽なのかもしれませんよ。
インタビューがうまくいかない日も、つい「それって嘘でしょ!」と言ってしまう日も、あっていいんです。完璧じゃなくていい。混ざったら、また一緒に答え合わせをすればいいだけですからね。
まもなく梅雨も明けて、空想がいちばんふくらむ夏休みがやってきます。息子くんの「〇〇くん劇場」、夏の間にどんな物語が生まれるのか、楽しみにしていてあげてください。かおりさん自身も、麦茶を片手にひと息つく時間を忘れずに。
ママ友ドクター ゆみせんせいより
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P.S. 次回のお手紙は、特別連載「私が白衣を脱いだ理由」です。
P.S.2 今回は【子どもの空想と嘘・言葉の育ち】関連のお手紙でした。その他のお手紙バックナンバーもあわせて読んでもらえると嬉しいです。
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ママ友ドクター 西村佑美
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