余命宣告を打ち明けられたら?小児科医だって自分の出産・育児に悩むからこそ寄り添いたい。

自分の母を笑顔にしたい!という幼き頃の想いから始まり、母親目線で外来で寄り添っていたつもりの大学病院時代…「白衣を脱いでママ友ドクターになるまで~第3回」
ママ友ドクターゆみ先生(発達専門小児科医・西村佑美) 2026.07.25
誰でも

 📮ママ友ドクターからの手紙 ── 特別連載第3回

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Dear Parents、

夏休みに入り、じめじめ蒸し暑い毎日。子育ての苛立ちと疲れが出やすいシーズンですね。私も諸事情あり夏バテも重なって配信頻度が空いてしまいました…お待たせしました。本日は特別連載3回目をお届けします。自閉症の姉と育つ幼少期と、小学校・中学校の海外生活を経て、部活に燃える学生時代、そして医師になって恩師に出会いまでを前回お伝えしておりました。今回は、小児科医なのに不安だらけの出産・子育てから大学病院での悔しい想いをした運命の出会い、そして「ママ友ドクター」が始まった時期までのお話です。

これまでの連載をまだ読んでいない方は、バックナンバーからぜひ。

バックナンバーはこちら  https://mamatomodoctor.theletter.jp/

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私は2010年に結婚し、その2年後の9月に長男が生まれました。

当時は小児科に入局し1,2年目で妊娠するのはとても珍しく、私はすこし気まずさを覚えながら毎日大学病院で小児科医として研修を積んでいました。

妊娠経過は超順調でしたが、出産の時は難産。破水してから30時間以上、なかなか産声があがらず出産へ不安が募るし陣痛が痛すぎるし、「早く帝王切開で出して!!」と当時の産科主治医に頼んだほどでした(が、笑顔で「西村さんはオペ適応ないですよ~」と励まされました) 

さて、おぎゃーっと元気な泣き声が聞こえるやいなや、緊張の糸が切れ、涙があふれ出てきました。出産は命がけだということを身をもって体験。初めての育児は、お世話そのものは新生児医療もやっていたのでそこまで大変とは感じませんでした。寝れないのも、当直で慣れていたので、想定範囲でした。

しかし、出産から2週間後、ひとりでコンビニに出かけたとき、ふと、社会から取り残された感覚に陥ったのです。

感情がコントロールできず、勝手に涙がこぼれる。
新生児の我が子に近づく蚊にすら殺気立つ。

自分の感情の振れ幅の大きさに、怖ささえ感じることもあったほどです。産後はこれほどまでにメンタルコントロールができず、感情に振り回されるものなのか、と初めて実感しました。

私が現在も小児科医として乳児健診を通じて産後の母親の心のケアにもかなり気を遣うのは、こういう体験があるからです。

とにかく、初めてのことばかりの当時。自分なりに色々調べました。ネットの情報や育児雑誌も隅々読んでいました。けれど、一人目の赤ちゃんは、とにかく可愛がっていました。

長男に発達特性があるかも?と疑いを持ちはじめたのは、息子が1歳半の時のことでした。他の子どもよりも活発だけど、話す単語の数が増えない、目が合いにくいなどの特性があったのです。

母は「あなたのお姉ちゃんにそっくりね」と、赤ちゃんの頃から長男の特性に気づいていたようでした。

多動ですぐにどこかへ走っていってしまうので、ずっと目が離せませんでした。

2歳のとき、我が子には自閉症の特性があり、言葉も遅れていると、自ら医師として認めざるをえないと判断しました。しかし医師である私ですら、この事実を受け入れるのにはしばらく時間が必要でした。

息子が3歳になるまで子育てが大変で、夫いわく、私はしょっちゅう泣いていたそうですが、全然記憶に残っていません。

今では中学生になった長男は良くしゃべるし、自分から塾に行くし休日は友達とカラオケに行ったり…当時の悩んでいたのが嘘のように成長しました。

私自身が長男を含む3人の子どもの親になることで、私の母が抱えていた思いや、発達特性を持つママたちの気持ちに、心から共感できるようになりました。

白衣を脱いで、孤独なママに寄り添いたい


小児科医として2年目の2012年9月。長男を出産し、産休に入りました。当時はまだ、産休を取る女性医師が少なかったので、私は半年ほどで現場復帰するつもりだったのですが、恩師の平岩先生がこう言いました。

「ひとりの子どもが1歳になるまで、どういうプロセスを経て成長するのか、そばできちんと見ておく。これこそ、子どもの発達を診る小児科医として最も大事なことですよ」

確かにその通りだ、我が子の成長を目に焼きつけようーー。

産休を有意義に利用し、週2日ずつ、合計10ヶ月間、平岩先生の外来に弟子として同席させてもらえることになりました。

3ヶ月の長男を院内の託児室に預けながら、お子さんや親御さんにどんな感じで先生が接しているのかなど、朝から夕方までみっちりと学びました。

産休が明けた、小児科医3年目の2013年10月。千葉県に新しく立ち上げられた小児病棟に、夫婦そろって派遣されました。

平岩先生から学んだメソッドをどんどん実践していかなければと、「すくすく相談外来」という名称の小児外来を開設。乳児健診の枠のなかで、発達相談を受けていきました。

すると、なんと発達相談が予想以上に好評。新たに週2回設けることにしました。

その後、小児科専門医も取得し、2016年には2人目を出産。2度目の産休中は、長男を幼稚園に入れ、さらに幼児教室や発達支援(療育)に通わせました。実際にプロの指導を受けてどんどん伸びる様子を間近で見学できたことが、その後の私の大きなスキルとなりました。

二人目の産休中、長男の育て方に悩み試行錯誤していたころ。(幼稚園の入園式にて)

二人目の産休中、長男の育て方に悩み試行錯誤していたころ。(幼稚園の入園式にて)

産休明けの2017年に、千葉から母校の大学病院に戻り、発達専門外来を新設させてもらいました。すると、ママ目線で具体的なアドバイスが評判となり、あっという間に予約の取れない人気外来になりました。私はたくさんの親子に寄り添い、役に立てている!と、自信をもつようになっていたのですが…

そこで私の運命を大きく変えるママと出会ったのです。

その方は、医療従事者のT子さん。当時、小学3年生と6歳の2人兄弟を育てるママで、2年ほど発達外来に通ってくれていました。

2019年のある日、彼女は親子で受診し私にこう言いました。

「乳がんが再発し、余命宣告を受けました。両親も義理の両親もいないし、夫を頼ることもできない。私に万が一のことがあったら、子どもたちのことはどうしたらいいのでしょう?」

一瞬、頭のなかが真っ白になりました。そしてすぐに悲しみが押し寄せてきて、同じ年頃の子を持つ同志として、「わが子が成人するのを見届けられない」と静かに語る彼女にもっと寄り添いたくなりました。

ここが、カフェだったら…一緒に泣けたのにーー。

けれども、診察室で白衣を身につけている限り、私は医師として彼女と接しなければなりません。

お互いのプライベートの話に踏み込んだり、連絡先を交換したりしてはいけないという医師としての暗黙のルールがあります。

それでも「私にできることがあれば、なんでも言って」と言いたかった。

背中をさすることもできたかもしれない。

でも、できません。

ひとりの医師として、淡々とアドバイスをすることしかできなかったんです。

今でも思い返しては、悔しい気持ちに苛まれます。

本当にあのやりとりでよかったのだろうか。
もっと、彼女の気持ちに寄り添った対応はできなかったのだろうか。
連絡先くらい教えておけばよかったのかな……。

すでに3人目の出産に伴い、数か月後には発達専門外来の休診が決まっていたため、彼女とは再会することも連絡を取ることもできなくなりました。

あの日のあのもどかしさを、私は一生忘れることはないでしょう。

この日のあまりにもやるせない経験から、白衣を脱ぎ、診察室の外でママ達に対面で寄り添うことはできないだろうかと、その方法を模索するようになりました。

「ドクター」ではなく「ママ友のようなドクター」として接したい。

そうか、病院で出会うから医師として接しなければいけないんだ。

白衣を脱ごう。

ひとりの人間として、病院の外で自分を必要としているママに会いに行こう。

そうして私は3回目の産休を使って、今度は病院を飛び出し、「ママ友ドクターゆみ先生」としての活動を始めることを決意したのです。

まさか…出産と同時に世界中がパンデミックという未曽有の事態になるなんて、この時は知る由もありませんでした。そして、それに伴い迎えたオンライン時代のおかげで、私はこの5年後にT子さんに再会し涙することになります。

P.S

産休中は何かに挑戦しようとする私の行動パターンへの賛否はさておき、今に至るまでもう少しストーリーが続いていきます。次回の配信は、「ママ友ドクターからの手紙(発達相談)」シリーズに戻ります!

ママ友ドクターからの手紙シリーズとテーマ別連載コラムの交互配信の形にしていきますね。

なお、コラムのテーマは、「AI時代と子育て」や「白衣を脱いで__ママ友ドクターになるまで」「ママ達のリアルインタビュー」など、色んな切り口でお届けします、お楽しみに。

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岩手県一関市のあじさい園にて見つけたハートの紫陽花。日本一のあじさいまつりと言われています。

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白衣を脱いで待ってます、お話ししましょう。

ママ友ドクターにしむらゆみ

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