「スーパーで走り回って商品をさわる息子。買い物が苦行です」(3歳男児)

多動な子どもを持つ親は、どこに行っても目が離せなくて気が抜けずに疲労困憊です。経験者でもあるママ友ドクターは、どう乗り切ったのでしょうか?
ママ友ドクターゆみ先生(発達専門小児科医・西村佑美) 2026.09.07
誰でも

📮 ママ友ドクターからの手紙 ── Vol.16

ママ友ドクターからの手紙 〜Dear Parents〜

「スーパーで走り回って商品を触る息子!!買い物が苦行(3歳男児ママより)」

***

2学期が始まりましたね。私も夏休みの多忙な子どもとの生活が終わりましたが、代表を務める一般社団法人日本小児発達子育て支援協会で、1年ぶりの認定ペアレントアドバイス講座(いわゆるペアトレ)をスタートするのでその準備に追われています。夕方のスーパーには新米や梨、ぶどうが並び始めて、売り場は少しずつ秋の顔。……なのですが、その売り場を全力疾走するわが子を追いかけて、季節を感じる余裕なんてない!というママ・パパへ。今日のお手紙は、あなたのためのものです。

こんにちは。ママ友ドクターの西村佑美です。

今日は、3歳の男の子を育てる、みほさんからのお手紙にお返事します。

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ゆみ先生へ

3歳4カ月の息子のことで相談させてください。

スーパーに行くたび、入り口で息子を下ろした瞬間から戦いが始まります。走り出して、棚の商品を片っ端からさわって、この前はお豆腐をぐにっと握ってしまいました。「カートに乗ろうね」と言えばのけぞって大泣き、「手をつなごう」と言えば振りほどいてダッシュ。お菓子で釣ってみても、食べ終わればまた走り出します。

先日は目を離したほんの数秒でいなくなって、広い店内だったのでかなり探し回りました。見つけたときは、安心よりも先に怒りが爆発して、店の真ん中で怒鳴ってしまいました。周りの視線が痛くて、帰りの車の中で私が泣きました。

3歳児健診では「元気いっぱいだね」で終わりましたが、園からも「動きが多いですね」と言われていて、発達特性があるのかな、療育に相談したほうがいいのかなと、夜な夜な検索ばかりしています。ハーネスも考えましたが、周りの目を思うと踏み切れません。もう、スーパーに行くのが怖いです。

みほより

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みほさんへ

お手紙、ありがとうございます。

見つけた瞬間、安心より先に怒りが爆発した——ここ、自分を怒鳴る親だなんて責めないでくださいね。あれは怒りの顔をした「恐怖」なんです。この子を失うかもしれなかった、という恐怖。命がけで探した人にしか出ない反応です。つまり、みほさんは、店の真ん中で、誰よりも本気で息子くんを心配していたし、守ろうとしていた。あなたは悪くない。ちなみにいうと、息子君のしつけの失敗でも、親の愛情不足でもありません。

そして実をいうと…私も長男が小さい頃、スーパーで迷子にさせたことがあります。それも一度じゃない。ショッピングセンターでは館内放送をかけてもらったこともあります。近所のスーパーでは、走り回っていたあげく通路でお漏らしをさせてしまった日もありました(これは、実は本人はトイレを探していたみたいです)。大人2人で見ていたのに見失って、知らない土地のスーパーだったので警察を呼ぼうかという騒ぎになったことも。ちなみに大捜索の末に見つかった長男は、死角となっていたお酒のコーナーでしゃがみこんで、きれいな瓶をうっとり眺めていました。逃げていたんじゃないんです。夢中だっただけ。

このときの長男の姿に、実は今日のお返事のヒントが全部つまっています。

子どもにとって、スーパーは「探検の街」

行動には必ず理由がある——これを常に頭に入れてください。じゃあ、走り回って、さわって、いなくなる理由は何でしょう。

みほさんの息子くんの目線でスーパーに入ってみてください。天井まで積まれたカラフルな箱、光る床、次々流れるお魚、ピッと鳴るレジ、通路を曲がるたびに変わる景色。大人にとっては「買い物リストを消化する場所」でも、3歳児にとってスーパーは、気になるものだらけの「探検の街」なんです。なにがどこにあるかな?あっちには何があるんだろう?——走り出すのは反抗じゃなくて、わくわくが体からあふれちゃっている状態。

しかも動きの多い子ほど、頭の回転が速くて、好奇心のアンテナがたくさん立っています。アンテナが高性能だから、あれもこれも引っかかる。さわるのは、手で確かめて世界を学んでいる最中だから。……とはいえ、生鮮食品をベタベタ触る、指で押すのは困るし、迷子は命に関わりますよね。だから、作戦を立てましょう!

作戦① まずは安全を守るベースを決める

大前提として、カートに乗せる、手をつなぐ。これができる日はそれでOK。どちらも無理な時期は、やむを得ずハーネスも選択肢に入れてください。海外では割と見かけますが、日本だと珍しいから怪訝な顔をされることもありますよね。でも、デザインも可愛いものにすればまだ抵抗感が減るかもです。周りからの目線より、お子さんの安全です。飛び出す子は、一瞬の油断が命取り。ハーネスは「つなぐ道具」ではなく「守る道具」。私は外来でも「使っていいですよ」とはっきりお伝えしています。お子さんが自分の行動にブレーキをかけられるくらい、脳が育つまでの、期間限定のお守りです。

なお、出発前の約束のしかたや、駐車場・道路での安全の守り方は、8月24日にお届けしたVol.18「多動の息子と外出するだけでクタクタです」(3歳男児・まなみさんへのお返事)にくわしく書きました。今日のお手紙とあわせて読んでもらえると、「あっ、そういうことか!」と気づいてもらえることが増えると思います。よかったらバックナンバーからのぞいてみてくださいね。

作戦② 意外な本命。「買わない日」に、探検をとことんさせる

ここからが今日の本命です。ちょっと意外に聞こえるかもしれませんが——買い物をしない「探検デー」を作って、店内探検を存分にさせてあげてください。

「走り回るのに、わざわざ連れて行くの!?」と思うよね。でも順番が逆なんです。強い好奇心は、押さえつけるとあふれます。先に満たしてあげると、落ち着くんです。

やり方はシンプル。買い物カゴを持たずに、親子で「今日は探検の日だよ」と宣言してお店を見て回ります。「お魚コーナーだ、あの鯛は大きいね」「黄色と緑のバナナ、いっぱいあるね」と、実況中継しながら一緒にゆっくり歩く。この実況中継、褒めようと頑張らなくていいんです。見えたままを声に出すだけで、子どもには「ママが見てくれてる」という最高のごほうびになる——これが肯定的注目です。息子くんのアンテナが向く先を、ママも一緒に面白がってあげてください。あの日の私が、お酒の瓶に見とれる長男の隣にしゃがんで「きれいだねぇ」と言ってあげられていたら——と、今でも思います(見つけた瞬間安堵して、無言で2歳の息子の隣にしゃがみこんだのを覚えています)。

そして探検には、ルールを2つだけ。

「走らないで、歩きます」 「商品は見るだけ。さわりません」

これを、怒るのではなく、隣で穏やかに、何度でも言い続けます。呪文みたいに、淡々と。そして少しでも守れたら、すかさず「歩けてる!カッコイイ!」「見るだけできたね、さすが!」。守れた瞬間にタッチをひとつ添えると、もっと効きます。ここを徹底してください。

コツは、探検デーと買い物デーを最初のうちは分けること。急いで買い物したい日に探検を混ぜると、親子ともに中途半端でイライラしちゃうからね。「今日は探検」「今日はお買い物」と、入り口で宣言してから入るのがおすすめです。子どもは「探検はしていい。でも歩いて、見るだけ」というスーパーのお作法を、叱られる経験ではなく、褒められる経験で覚えていきます。すると不思議なくらい、走り回りが減っていくんです。

作戦③ 探検から「お使いミッション」へ

探検デーに慣れてきたら、次のステップ。「今日は牛乳を買いに行こう!」と、目的をひとつだけ持って出かけます。そして売り場を一緒に回りながら、本人に商品を探させてください。「牛乳、どこかなあ?」「あ、見つけたの!?すごい」「カゴに入れてくれる?」——探す係、カゴに入れる係、レジで出す係。あの高性能アンテナに、お仕事を任命しちゃうんです。

正直、時間はかかります。牛乳1本に15分かかる日もあると思う。でもこの「手間」が近道なんです。探検で好奇心が満たされて、ミッションで役に立つ喜びを覚えた子は、だんだん普通の買い物にも付き合えるようになっていきます。そして何より——「走らないで!」「さわらないで!」と追いかけて怒鳴る毎日のイライラから、ママが解放されます。買い物の時間は少し延びるけど、心の消耗はぐっと減る。トータルでは、絶対にお得です。今では我が家はお買い物も、すっかり探検イベントです。私も体験していた買い物=苦行の日々が嘘みたい。実際のわが子たちの様子、このお手紙の最後に写真を掲載しますね。

探検家は、いつか隊長になる

あの迷子常習犯だった長男が、どうなったと思いますか?

小学1年生になる頃には、びっくりするくらい慎重になって、迷子にならないよう自分で気をつけるようになりました。小学生のうちに一人でスーパーに買い物に行けるようになりました。大人が頼んだものを買いに行くときは、目的の商品が見つからないときや、どれを選んだらいいか分からなければ店員さんに確認できるようになりました。どこどこのお店の○○の方が〇円安い!など、持ち前のリサーチ力と探求心が発揮されています(笑)そして今では——7歳年の離れた末っ子が売り場でふらっといなくならないように、目を配ってくれるお兄ちゃんです。館内放送をかけられた側だった子が、今は迷子を防ぐ側にいる。あの頃の私に教えてあげたいくらいです。

好奇心のアンテナは、消すものじゃなくて、育てるもの。言われたことを言われた通りにやる力はAIが引き受けてくれる時代に、「気になる!」に迷わず飛び込んでいけるあの力は、これからの世界でこそ光る強みです。

みほさん、今日の買い物が予定通りに終わらなくても、探検デーが5分で撤収になっても、いいんです。完璧じゃなくていい。「歩けたね」が1回言えたら、その日は大成功。梨がおいしい季節です。ミッション第1号は「梨をひとつ、探してカゴに入れる」なんて、どうかな。

スーパーが「怖い場所」から「親子の探検の街」に変わる日を、私も一緒に楽しみにしています。

ママ友ドクター ゆみ先生より

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P.S. 次回も、私のもとへ届いたママたちの悩みにお返事を書いていきますね。時々、コラムを挟みます。私も3児の子育てママなので、予定通りの配信ができないこともあるのですが、どうか楽しみに待っててください。認定講座とVARYに関する説明会も開催中。インスタと公式LINEから情報をお届けしますので、ご登録ください。

P.S.2 今回は【多動・お買い物の困りごと】関連のお手紙でした。バックナンバーもあわせて読んでもらえると嬉しいです。

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実際のわが家の買い物の一コマ。長男は一人で店内散策しているので写っていません。長女のサングラスと背景の一部はAI加工しています。次男は、無加工です。お気に入りのぬいぐるみ持ってサングラスしてスーパーに行ったって、全然いいのです(^^)

実際のわが家の買い物の一コマ。長男は一人で店内散策しているので写っていません。長女のサングラスと背景の一部はAI加工しています。次男は、無加工です。お気に入りのぬいぐるみ持ってサングラスしてスーパーに行ったって、全然いいのです(^^)

♪ 白衣を脱いで待ってます、お話ししましょう。

ママ友ドクター 西村佑美

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