「まだ話せません」(3歳3ヵ月男の子)様子を見ていいのか悩むとき

発達専門の小児科医ゆみ先生が、悩めるママさんへお手紙が届きました
ママ友ドクターゆみ先生(発達専門小児科医・西村佑美) 2026.06.12
誰でも

📬 ママ友ドクターからの手紙 ── Vol.08

「3歳になっても、まだあまり話せません」

***

ゆみ先生へ

3歳3ヶ月の男の子のママ、なつみと申します。

息子は、まだあまり喋れません。

意味のある単語は20個くらい。「ママ」「パパ」「ワンワン」「アンパンマン」……それ以外はほとんど「あー」「うー」で、こちらの言うこともどこまでわかっているのか、わからない時があります。

「ジュース取って」と言うと冷蔵庫を開ける、「靴履こうね」と言うと玄関に向かう、こういうのはできるんです。でも、「これ何?」と聞いても答えないし、欲しいものがあると私の手をつかんで連れていく、いわゆる「クレーン現象」が多いです。

3歳児健診で相談したら、「もう少し様子を見ましょう」と言われました。でも周りの3歳の子はもうペラペラ喋っていて、「どうしてうちの子だけ?」と落ち込みます。

療育には今年1月から週2回通っていて、本人は楽しそうに通っています。保育園の先生も「みんなと仲良く過ごせていますよ」と言ってくれます。

それでも、毎日不安です。

このままで本当にいいのか。私にできることは何なのか。何か、家でできることがあれば教えていただきたいです。

なつみ より

***

なつみさんへ

お手紙、ありがとうございます。

「もう少し様子を見ましょう」と言われて、発達支援に通っていて、保育園でも楽しそうに過ごしている。それでも毎日不安。

その気持ち、よくわかります。

「ちゃんとやれている」と言われれば言われるほど、「でも、私はまだ何かしてあげられるんじゃないか」と思ってしまうのが、親という生き物なんですよね。

その不安は、なつみさんが息子さんを真剣に見ているからこそ生まれる感情です。決して「気にしすぎ」ではありません。

今日は、息子さんがおうちでぐんと伸びるために、なつみさんに知っておいてほしいことを書きますね。

***

まず、いちばん大事な前提から。

「会話力」と「理解力」は、別物です。

たとえばこう考えてみてください。なつみさんとご主人が、いきなりアラビア語の国に行ったとしましょう。当然、お二人は現地の言葉で会話できません。でも、頭の中で「何を考えているか」は普通にあるはずです。お腹が空いたな、トイレに行きたいな、あの店、いい雰囲気だな……ちゃんと考えている。

でも、現地の人からは「この人たち、会話できないから、わかってないんだろうな」と思われてしまう。

息子さんも、これと同じ状態にいます。

「喋れない」イコール「わかっていない」ではありません。

「ジュース取って」で冷蔵庫を開ける、「靴履こう」で玄関に向かう——これだけで、お母さんの言葉をかなり理解できている証拠です。理解する力は、ちゃんと育っています。

「わかっていないだろう」と決めつけて息子さんへの説明を省略してしまうと、本人は納得していないので怒ったりひっくり返ったりする。そして大人は「ほら、やっぱりわかってない」と思い込んでしまう。この悪循環には、ぜひ入らないでほしいんです。

さて、ここからがいちばん大事なお話です。

言葉が伸びていく順番には、実は研究で分かっている「順序」があります。

1.非言語コミュニケーション(アイコンタクト・ジェスチャー)が伸びる
2.表情でのやり取り(顔を見て笑う、気持ちのキャッチボール)ができる
3.高度なやり取りをしたくなり、大人の言葉や行動を真似し始める
4.そこから、言葉がスムーズに伸びていく

つまり、言葉が伸びる前に、まず「目を合わせる力」が育つんです。

標準的な発達の子は、生後半年頃から目を合わせてニコッと笑うアイコンタクトが始まります。1〜2歳の段階で、まだ言葉が少なくても目と表情でコミュニケーションが取れている。だから3歳になる頃には、言葉が自然に乗ってきます。

息子さんは、たぶんこの「アイコンタクト」の部分が少し苦手なタイプではないでしょうか。

クレーン現象が多いのも、目で訴えるより手をつかんで指さすほうが早い、と学習してきたからです。これは、自閉スペクトラム特性のあるお子さんが通る道のひとつで、決して「親の関わりが悪かったから」ではありません。

そして大事なのは——今からでも、アイコンタクトは育てられるということ。

今日から家でできる、3つのこと

① 「5秒待つ」を、習慣にする

これがいちばん効きます。

息子さんが指さしや「あー」「うー」で何かを要求してきた時、すぐに応えないで、5秒だけ待ってみてください。

たとえば、絵本を持ってきて「読んで」と訴えてきたら、すぐに読み始めないで、絵本を少し離す。コップを指さしてジュースを要求してきたら、すぐに渡さないで、ちょっとだけ待つ。

「ママ、反応してくれないな」と思った瞬間に、息子さんはチラッとこちらを見ます。

その目が合った瞬間に、ニコッと笑って「はい、どうぞ」と応えてあげてください。

これを毎日、いろんな場面で繰り返します。「目を合わせると、何かイイコトがある!」を、体で覚えていく。

それが、アイコンタクトを育てる王道です。

5秒は意外と長く感じます。最初はもどかしいかもしれません。でも、その「待つ間」がチャンスを生みます。

② 「実況中継」をする

息子さんがやっていることを、そのまま言葉にしてみてください。

「車、走らせてるね」 「アンパンマン、ぎゅっとしてるね」 「ジュース、飲んでるね」

褒めようとしなくていい。「すごいね」「えらいね」も言わなくていい。ただ、目に映ったままを声に出す、実況中継をしてみる。

これだけで、息子さんに大量の言葉のインプットが届きます。

一般的に「200語以上のインプットがあれば、話し始める」とも言われています。日々の関わり、体験していること全てが言葉とセットになると自然な単語のインプットにつながります。

そして、実況中継には「あなたを見ているよ」というメッセージが乗っています。子どもって親に見てもらうことが大好きなのです。だから、これが息子さんの安心感を育てて、人とのやり取りを楽しいと感じる土台作りになります。

③ 「赤ちゃん言葉」をやめる

ここはぜひ意識してほしいポイント!!!「アムアム」「もぐもぐ」「ねんね」「ブーブー」「ないないして」——可愛い言葉ですが、息子さんが3歳になったいま、ぜひ普通の言葉に切り替えてください。

「食べる」「寝る」「車」「片付け」。

赤ちゃん言葉を使い続けると、本来覚えるべき言葉を覚えるチャンスが減ってしまいます。
同年代のお友達と話す時にも、「食べる」と言えるほうが断然有利です。

直すのは少し意識が必要ですが、最初から普通の言葉で接して大丈夫。信じてください、息子さんはちゃんと吸収できます。

療育で楽しそうに通えていること、保育園で笑顔で過ごせていること。

これは本当に、本当に、成長している証です。毎日頑張って過ごして、うまく言葉が通じない状況でも笑顔で過ごしているということ。毎日送り出すときも、お迎えに行くときも、

「今日も頑張ったね、ありがとう!うれしいよ!」という気持ちでハグしてあげてくださいね。

よく相談を受けるのですが、「もう少し様子を見ましょう」と言われても、ただ待つ必要はありません。様子を見るというのは「何もしないで待つ」ことではなく、「今できる関わりをちゃんと積み重ねながら、伸びる時期を見ていく」ということです。

そして、なつみさんがこのお手紙を読んでいる今、すでに息子さんへの関わりが変わり始めています。

最後に、希望のお話を。

私の長男も、1歳半から2歳の頃、まだ20個くらいしか単語が出ていませんでした。「うちの子は大丈夫なのだろうか」と、毎日不安で気づかないふりをしていた時期があります。

でも、その息子は今、中学生になりました。よく喋ります。本当によく喋る。発想が独特で、感性が豊かで、私が日本人なのに知らない言葉まで知っている。中国語を独学で始めて、「中国のトイザらスで現地の言葉でおもちゃを買いたいから」という、彼らしい理由で頑張っています。

あの頃の私は、まさかこの未来が来るとは思っていませんでした。

息子さんの未来も、なつみさんが思っているよりずっと豊かです。

特にこれからのAI時代、独特な感性や視点を持っている子は、これから本当に必要とされる人材になります。AIが代わりにやれないことが「人間らしさ」だとしたら、まさに発達特性のある子たちが、それを持っています...私はそう感じています。

毎日不安なお母さんへ。

息子さんはちゃんと、育っています。なつみさんの愛情も、ちゃんと届いています。

今日、息子さんが指さした瞬間に、5秒だけ待ってみてください。目が合ったら、ニコッと笑ってあげてください。

それだけで、もう、ばっちり(^^)

ママ友ドクター ゆみ先生より

 

P.S.

今回は【言葉の遅れに悩むママへ】のお手紙でした。前回の「発達障害かもと心配なママへ」と合わせて読んでもらえると、より深く理解できるかも!

***

このように、私のもとへ届いたママたちの悩みにお返事を書く形で役立つコツやお話をお届けしていきます。なお、実際に西村が外来やコミュニティ内で相談受けた内容をもとにしてあります。また「前略、西村佑美さま」「白衣を脱いで~」「AI時代と子育て」などなど、少しずつシリーズ化していきます、お楽しみに。

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ママ友ドクター・小児科専門医・子どものこころ専門医 西村佑美

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