「友達に手が出てケガさせてしまいました(3歳6か月男児)」どう対応したらいい?
📬 ママ友ドクターからの手紙 ── Vol.9
「手が出る子で、お友達にケガをさせてしまいました」
ゆみ先生へ
3歳6か月の男の子のママ、ようこと申します。
昨日、保育園から電話がかかってきました。
息子がお友達を押してしまって、お友達が転んで怪我をしてしまいました。
電話を切った瞬間、頭が真っ白になって、その後はぼろぼろ泣きました。お迎えに行って先生から状況を聞いて、相手のお子さんのお家に夫婦で謝罪に行って——相手のお母さんは「子ども同士のことだから」と優しく言ってくれましたが、その優しさが余計に胸に刺さりました。
実は、手が出るのは今回が初めてではないんです。
ここ数か月、保育園で「お友達のおもちゃを取ろうとして揉めて押した」「並んでいたら横入りされて叩いた」「後ろから髪を引っ張った」というような報告が、何度もありました。私もそのたびに息子に「叩いちゃダメ」「ごめんなさいでしょ」と言い聞かせて、家ではうんうんと頷くのに、次の日にはまた手が出る。
息子はもともと言葉がゆっくりで、いま二語文が出始めたところです。多動の傾向もあって、療育に週1回通っています。発達特性のことで、もう半年悩んでいます。
「ちゃんと、子どもをしつけられないダメな親」「お友達にケガをさせる子の親」と思われてるんじゃないか。連絡帳を開くのが怖い。お迎えの時、他のママと目を合わせるのも怖い。
息子のことは可愛いです。本当に可愛い。それなのに、なぜこの子が「叩く子」になってしまうのか。私の育て方が悪かったのか。
毎日謝りながら、毎晩泣いています。
このままだと、私が壊れてしまいそうです。どうか助けてください。
ようこ より
ようこさんへ
お手紙、ありがとうございます。
文面から、ようこさんの追い詰められた気持ちがそのまま伝わってきて、私も読みながら胸が痛くなりました。
まず、いちばん最初にお伝えしたいことがあります。
ようこさんは、しつけができないダメな親じゃありません。 息子さんも、悪い子じゃありません。
これだけは、絶対に、最初に受け取ってほしいです。
お友達にケガをさせてしまった、という事実は事実として、ちゃんと向き合わなければいけない。でも、その事実と「ようこさんの人間としての価値」「息子さんの本質」は、別の話です。
毎晩泣きながらも、毎朝起きて保育園に送り出して、また呼び出されて謝りに行って——それだけ向き合っているのに、ダメなはずがない!!!
そして、お手紙の最後に「このままだと私が壊れてしまいそう」と書いてくれましたね。そう言葉にできたことが、まずいちばん大事です。だから今日は、息子さんへの対応の話と同じくらい、ようこさん自身の心の話もさせてください。
まず、知っておいてほしい大前提
「手が出る」は、3歳前後の子どもに、本当によくあることです。
びっくりするほど、本当によくあります。子ども発達相談アカデミーVARYのライブでも、月に何件も同じテーマの相談が届きます。
それは「しつけの問題」ではなくて、「言葉でうまく表現できないから、体が先に動いてしまう」ということなんです。
言語レベルと物事を理解して認知するレベルは必ずしも一致するわけではないのです。息子さんは今、二語文が出始めたばかりですよね。二語文はだいたい2歳児さん前半の言語レベルの目安です。でも、理解できることは2歳ではなく3歳児さん相応だとすると、ようこさんのお子さんの脳の中には、た~くさんの感情や欲求や思いがあります。「これで遊びたい」「貸してほしい」「一緒に遊びたい」「やめてほしい」「悲しい」「悔しい」「びっくりした」——でも、それを表現する言葉のストックが、まだ追いついていない。
例えば、私たち大人は困った時や嫌なことがあった時、イライラした時は、そのマイナスパワーを内側に溜めたままでは過ごせないので、様々な言葉で表しますよね。
「あ~もう!」「〇〇がしたかったのに、くやしい!」「イライラする」「残念!!」などなど。
でも、それを表現する言葉のストックがまだ追いついていない子どもは、そんなときどう動くか。
手が出ます。
そう、悪意からではないんです。「言葉で言えないから、行動で表す」しかない、まだ未熟な段階だからこその姿です。
「叩いちゃダメ」だけでは、ぜったいに変わらない理由
ようこさんは、毎回「叩いちゃダメ」「ごめんなさいでしょ」と言い聞かせてきましたよね。息子さんもその場では頷くのに、次の日にはまた手が出る。
これ、なぜか分かりますか。
「ダメ」を伝えるだけでは、息子さんの中に「じゃあ、どうすればいいの?」の答えがないからなんです。
たとえば、おもちゃを取りたかった場面で「叩いちゃダメ」と言われたとしても、息子さんの頭の中には「でも、おもちゃは欲しかった」「じゃあ、どうやって手に入れればよかったの?」という疑問だけが残ります。代わりの行動が分からないから、次に同じ場面が来たら、また同じことをしてしまう…
子どもの行動を変えるには、「ダメな行動」を止めるだけでは足りない。「代わりにどうすればいいか」を、具体的に教えてあげればいいのです。
ここからが本題です。
今日からできる、3つの取り組み
① 行動の「裏にある気持ち」を、ようこさんが言葉にしてあげる
これがいちばん大事です。
息子さんが手を出してしまった場面を聞いた時、こう声をかけてあげてください。
「おもちゃ欲しかったんだね」 「お友達と遊びたかったんだね」 「びっくりして、嫌だったんだね」
息子さんの気持ちの代弁です。
「子どもの行動には、必ず理由(きっかけ)がある」——これを覚えておいてくださいね。後ろから髪を引っ張るのは「遊ぼう」って言えないから。おもちゃを押し返すのは「返して」と言い返す言葉を知らないから。叱るよりも、その行動の裏にある気持ちを想像して、ようこさんが言葉にしてあげるんです。
これを繰り返すうちに、息子さんの中で「自分の気持ちには名前がある」「気持ちを言葉で言える」という感覚が育っていきます。これが、手が出る行動を減らすいちばんの土台になります。
② おうちで「ロールプレイ」をする
家で、具体的なセリフの練習をしてみてください。
「お友達のおもちゃで遊びたい時はね、髪の毛引っ張るんじゃなくて、なんて言うんだっけ?」 「『か・し・て』だね。じゃあ、ママがお友達ね。練習してみよう」
おもちゃの取り合いも同じです。ママが意地悪役になって、わざとおもちゃを取って、「返して」「貸して」「後でね」を繰り返し言わせる。
これね、すごく大事なポイントがあります。
家で言えるようになって、初めて、保育園で言えるんです。
いきなり保育園の現場で「貸してって言いなさい」と言われても、3歳児はそんなにすぐに切り替えられません。だから、おうちで何度も何度も、ゲームみたいに、楽しく練習しておく。これが効きます。
ちなみに私の次男は、3歳で幼稚園に入園してすぐ、お迎えに行った私の目の前で通りがかった女の子をニコニコしながらドーンと押し倒したことがありました。あわてて本人に聞いたところ、「だって可愛かったから…」というビックリの理由でした(笑)「可愛い子には可愛いねって言えばいいんだよ」と教えたら、翌週からニコニコしながら「可愛いね、好きだよ」と言うようになって、それはそれで困りましたが——でも、「代わりのセリフを覚えると、行動が変わる」んです。これは本当です。
③ 保育園の先生に、「お願いの仕方」を変える
ここも大事です。
「叱ってください」「気をつけて見てください」ではなく、こう伝えてみてください。
「息子は、お友達と関わりたい気持ちはあるけれど、まだ言葉が追いつかないので手が出てしまうようです。家でも『貸して』『遊ぼう』『やめて』を練習しています。園でも、手が出てしまった時に、『遊びたかったんだよね』と気持ちを受け止めてもらってから、『次は遊ぼうって言ってみようね』と代わりのセリフを教えてもらえると、すごく助かります」
ポイントは、「注意して止めるだけ」ではなく、「代わりになるセリフまでセットで教えてもらう」こと。これを先生方と共有できると、家と園の対応がそろって、息子さんの中で「こう言えばいいんだ」が定着しやすくなります。
やってしまったとき、現場で何をするか
そして、もし目の前で手が出てしまったら。
その場では、まずお友達の安全確保が最優先です。
息子さんを引き離して、お友達のケガを確認する。お友達と保護者に謝る。これは当然のことです。
でもその次、ようこさんが息子さんに何を言うかが、すごく大事です。
「叩いちゃダメ」と頭ごなしに言うのではなく、こう声をかけてみてください。
「おもちゃ欲しかったんだね。だからお友達を押しちゃったんだね。でも、押すとお友達は痛い。だから、次はなんて言うんだっけ?」
息子さんが「かして」と言えたら、「そうだね、貸してだね。今度はそれを言おうね」と繰り返す。
その場で叱るだけだと、息子さんは「ママが怖い」しか覚えません。「次にどうすればいいか」までセットで言ってあげると、少しずつ脳に刻まれていきます。
ようこさん自身のことを、話します
ここからは、息子さんの話ではなく、ようこさんの話です。
毎晩泣いている、と書いてくれましたね。連絡帳を開くのが怖い、他のママと目を合わせるのも怖い、と。
そのつらさを、私は分かります。私自身、長男が幼稚園で大変だった時期、お遊戯会で何もできずに泣き叫ぶ息子を抱えて帰った日、自転車に乗せながら泣いたことがあります。「なんでうちの子だけ」と思いながら、見上げた夜空の星が涙でにじんで光の筋になっていたのを、今でも覚えています。
ようこさんが今、その夜の私と同じ場所にいるんだと思います。
だから、これだけは伝えさせてください。
いま、ようこさんがいちばんやってはいけないのは、「自分を責め続けること」です。
責めても、息子さんは変わりません。むしろ、お母さんが追い詰められていると、その不安が息子さんに伝わって、息子さんはますます落ち着けなくなります。
責める代わりに、こうしてください。
少しだけ、ようこさん自身のための時間を作ってください。
夫さんや実家、ファミリーサポート、誰でもいいから、週に1回でも、息子さんから物理的に離れる時間を作る。本屋さんに行ったり1時間カフェでぼーっとするだけでもいい。最近人気の、手書きノートや手帳の時間を持ってもいい。
「子どもから離れたい」と思うことに、罪悪感を持たないでください。「自分だけの時間を作る」のは「子どもを拒否している」のではなくて、「自分の心を守るため」。小児科医として言えるのは、どんな親でも心にゆとりがないとうまく子育てできません。
「叩く子の親」と思われている、と書いてくれましたね
最後に、これだけ。
他のママたちは、ようこさんが思っているほど、ようこさんを責めていません。
もちろん、心配しているママもいるかもしれない。少し距離を置いているママもいるかもしれない。でも、「あの子の親はダメ」と決めつけているような人は、実は少数です。
そして、ようこさんが「私はちゃんと向き合っている」「家でも練習している」「先生にもお願いしている」と、地道に動いている姿は、必ず誰かに伝わっています。今日伝わらなくても、半年後、1年後に「あのお母さんは、ちゃんと向き合っていたよね」と分かる時が来ます。
最後の最後に、希望のお話
私の長男も、幼児期にはいろんなトラブルがありました。言葉の遅れもあり、よく動くしかんしゃくもあるし...「うちの子、本当に大丈夫なんだろうか」と思った夜は数えきれません。
でも、今、中学生になった彼は、これでもか!というほど、よく喋ります。発想が独特で、感性が豊かで、面白くて、思いやりもあります。あの頃の彼が、今の彼の姿になるなんて、当時の私には想像もできませんでした。
息子さんの未来も、ようこさんが思っているより、ずっと豊かです。
「手が出る」という今の姿は、永遠ではありません。言葉が追いついた時、息子さんの脳の中の豊かな思いは、ちゃんと言葉になって出てくるようになります。それまでの間、ようこさんは、家で言葉をかけ続けて、ロールプレイを繰り返して、気持ちを言葉にしてあげる。それだけで、十分です。
そして、これからのAI時代において、「人と違う発想」「独特の感性」「言葉では表現しきれない豊かな世界観」は、むしろ強みになります。今は手が出てしまうほど、息子さんの中には言葉にしきれない世界がある。その豊かさは、いつか彼の武器になります。
ようこさん、毎晩涙してしまうような夜を、同じように過ごしてきたお母さんはいますよ。
ひとりじゃないからね。
さあ、今夜は、息子さんが寝た後に、入浴剤を入れて改めて湯船に少しゆっくり浸かってくださいね。
ママ友ドクター より
P.S.
今回は【手が出る・他害】関連のお手紙でした。バックナンバーの「3歳になっても、まだあまり喋りません」と「毎朝『幼稚園いきたくない』と言います」も合わせて読んでもらえると、今家でできることがより深く理解できるはず。参考にしてね。
また、今後も、さまざまな切り口で、たとえばAI時代と子育てをテーマにした教育コラムや「白衣を脱いで」シリーズや、私自身が長男のことで悩んでいた時期のことを書いて配信していきます。お楽しみに。
📮 バックナンバーはこちら ▶ https://mamatomodoctor.theletter.jp/
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